危険ナ香リ


 佐久間先生がいい。


 佐久間先生のニオイがいい。


 ……佐久間先生に、会いたい。




「……恭子……」




 ボロボロ涙を零して必死で耳を押さえるあたしに気づいて、祐の腕の力が弱まった。


 逃げ出してしまいたいと思った。


 だけど、立ち上がる暇さえないほどに、あたしは泣き続けた。




 ……苦しい。




 1人で楽になろうとしている祐が、あたしの頭に手を乗せてきた。


 瞬間、振り払いたい衝動に駆られる。




「……きらい」




 触れたところから、苛立ちが溢れてくるようだった。




「祐なんか、大っ嫌い!!」




 なんの迷いもなく、その一言を言い放った。


 そして、あの時、祐があたしの家に来ると言った時、断ればよかった、と心底思った。


 断ってさえいれば、せめて、泣かずにすんだかもしれないのに。


 ……せめて、穏やかに諦めることができただろうに。




 “きらい”と言ったその瞬間、あたしの中で、祐への恋心は弾け飛ぶように消え去った。




.
< 215 / 400 >

この作品をシェア

pagetop