危険ナ香リ
その手に大人しく従い、促されるがままに椅子に座る。
「ちょっと待っててね。今、アイス冷蔵庫に入れてくるから」
美波先輩はコンビニの袋を片手に、佐久間先生と同じようにキッチンに消えた。
先に出てきたのは、佐久間先生だった。
目の前に湯気がたっている温かいお茶が置かれた。
あたしはそのお茶には目もくれず、佐久間先生を見つめていた。
その視線に気づいたのかどうか分からないけれど、佐久間先生も、あたしを見てきた。
「……目、どうした?」
その言葉と共に、タバコのニオイがする指先が、そっとまぶたに触れる。
……最初の言葉に、“いきなりなんだ”とか“なにがあった”とか、そんな言葉がこなかったのは、意外だった。
でもその意外な言葉が嬉しかった。
―――― 佐久間先生の言葉は、疑うこともなく受け入れることができる。
その目に映っているのは、間違いなくあたしだと思える。
心配されていることが、素直に嬉しく思える。
「なぁに触ってんのよ、この変態!」
佐久間先生だけに気をとられていたせいなのか。
美波先輩がキッチンから出てきていたことに気づかなかったあたしは、突然聞こえた声にビクリと肩を跳ね上がらせる。
佐久間先生もちょっとビックリしたみたいで、触れていた指先がすぐに離れていった。
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