危険ナ香リ
「葛西はお前が嫌いなわけじゃないよ」
「……でも」
「事情があるんだよ」
……また“事情”。
祐の言葉にもその単語が張り付けられていたことを思い出して、すごく寂しくなってきた。
せめて少しでもその寂しさを抑えるために、佐久間先生の腕をきつく握る。
「事情ってなんなんですか」
それはもしかして、誤魔化す為の言い訳なのではないかと思った。
「今すぐ言えないようなことなんですか?それとも、嘘なんじゃ」
「本人に直接聞けばいいだろ」
「……柚乃ちゃん、答えてくれますか?」
「答えるよ。きっと」
……抱きつきたくなった。
確実に答えてくれるとゆう保証がないから、答えてくれなかったらどうしよう、と考えてしまって、さらに寂しくなった。
寂しさを埋めるために抱きつきたくなった。
……でも、目の前にあるテーブルがあたしの邪魔をする。
せっかく会えたのに、触れているのは、手だけだった。
「ほら。送るから帰ろう」
もう話は終わったとみなされて、重ねられた手が離れていった。
瞬間、どうしようもなく寂しくなって、悲しくなって、泣きそうになった。
「美波、風呂にお湯入れたから、先風呂入ってろ」
「あたしも恭子ちゃん送っていきたい」
「お湯冷めても知らないからな」
「お湯より恭子ちゃんの方が大事なのっ」
ついには、掴んでいた手すらはがされてしまう。
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