危険ナ香リ
“会いたいから”
そんな理由でここまできた。
だけど、もう会えたから帰ってもいいや、なんて風には思えなくて……。
……佐久間先生の背中を見て、あたしは今まで以上に悲しくなって、気づけば目から涙を流していた。
「……っ」
「え?きょ、恭子ちゃん!?」
「は?」
美波先輩が先に気づいて、それから佐久間先生が気づいた。
振り向いて佐久間先生の顔が見えた時、“振り向いてくれた”とちょっとだけ嬉しくなった。
その小さな嬉しさが、あたしを素直にさせてくれる。
「い、いかないでよぉ……っ」
側にいてほしい。
ううん。
……抱きしめて、ほしい。
「え?ちょ、やば。その泣き顔と言葉、めちゃくちゃイイっ」
「い、言ってる場合かよ!清瀬、どうしたっ」
「佐久間先生のばかぁあっ」
「なに泣かしてんのよ、敦!」
「俺なにした!?」
わーわー騒ぎながら泣くあたしと、佐久間先生を責める美波先輩と、慌てる佐久間先生。
美波先輩に“慰めにいけ”と命令されると同時に、佐久間先生が急いであたしに駆け寄った。
今度はテーブルを挟んでではなく、ちゃんと、向かい合った状態で。
「悪い。泣かせるつもりはなかったんだよ。ただ、やっぱりもう夜だし、帰した方がいいって、俺の理性が」
「なにを妄想していた、この変態」
美波先輩のツッコミを聞きながら、顔をあげて佐久間先生を見つめた。
困ったようにあたしを見つめているその瞳と目があった。
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