危険ナ香リ




「まあ、そこまではしないけど。泣かれたくないしな」




 はあ、とまたため息をはいた佐久間先生は、あたしから手を離し体を起こした。


 その時、腕を引っ張られてあたしも体を起こらせた。


 お、終わった?


 なんか、ホッとしたような残念なような……とりあえず、不思議な気分。


 じぃっと佐久間先生を見つめてみた。


 佐久間先生は、少し苦しげな顔をしながら笑って見せた。


 ……どうしてそんな顔するの?


 感情移入してしまったのか、あたしまで苦しくなってきた。


 思わず佐久間先生の頬に指先をつけてみると、少し驚いたように震えた。




「どうしたんですか?」

「……どうもしない」

「でも」

「なあ、清瀬」

「……はい?」

「……キスしてもいいなら、帰してるよ」




―――― 矛盾している。




 さっきまでは帰すと言っていたくせに、今はそんなことを言って。


 謎だと思った。


 ……でも、なんでだろう。




「なんてな。冗談」

「いいです、よ」




 そんな矛盾が可愛いと思える。


 ……愛しいと思える。


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