危険ナ香リ
抱きしめられるよりも、涙を拭かれるよりも、さらに強くタバコのニオイを感じる。
離れた手で、今度は側にいた佐久間先生の服を掴んだ。
顎にあった先生の手が離れて、後頭部に移動したことを肌で理解した。
もう一度、今度は強く押しつけられて、めまいがするほど緊張する。
だけど嫌じゃない。
全然嫌なんかじゃないの。
少し離れてはまた唇を押し付ける佐久間先生に向かって、胸の中でそう言う。
おかしいかな、とも問いかけてみた。
佐久間先生は養護教諭で、あたしは生徒で……。
こんなことはおかしいかな、と問いかけてみた。
当たり前のように返事はかえってこなくて、でもそれがホッとした。
“おかしい”と言われてしまったら、きっと涙が枯れるまで泣いているに違いないから。
タバコのニオイが離れていくのを感じて、閉じていた目をそっと開いた。
後頭部においてあった手が離れていくとほぼ同時に、佐久間先生の顔が見えた。
「……悪い」
その顔はとてもつらそうで、見てるあたしもつらくなる。
どうしてそんな顔しているのか全然分からなくて、どうすればそんな顔やめてくれるのかも分からなくて。
あたしにはなにもできないのかなと思った瞬間に、いつも、あたしが泣いている時に佐久間先生がしてくれることを思い出した。
佐久間先生の大きな体に腕を絡まる。
ぎゅっと、もっとくっついてしまえばいいと言うように強く強く抱きしめた。
「清瀬……?」
「……そんな顔、しないでください」
佐久間先生の温もりがあたしに伝わっていたように、あたしの温もりも佐久間先生に伝わればいいのに。
そう思いながら、佐久間先生を抱きしめ続けた。
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