危険ナ香リ


 なにを思うべきだったのか分からない。


 ただ、柚乃ちゃんのその姿が、いつかのあたしと重なって見えた。


 ……確か、美波先輩が柚乃ちゃんを追いかけて行った、あの日。


 今の柚乃ちゃんみたいに、訳も分からずに取り残されていた、あの日のあたしと重なって見えた。




「恭子ちゃん」

「は、はい」




 いつもの空き教室の中に入った途端、美波先輩が振り向いた。


 あたしは、なにを言われるんだろうと思いながら少しオドオドしていた。




「柚乃は恭子ちゃんのこと嫌いなわけじゃないのよ?」

「……へ」

「ただ正直に話す勇気がないだけよ。だって、好きな人がいるって言うのって、相当な勇気いるでしょ?」




 ああ、なるほど。


 美波先輩は、柚乃ちゃんのフォローがしたいんだ。




「それにね……やっぱり片想いって、ツラいのよ」




 片想いのツラさならあたしだって知っている。


 祐が好きだった。

 だけど祐にはカノジョがいて、あたしの入り込む隙なんてなくて。


 もどかしくて苦しくて、ツラかった。


 ……だから、そのツラさを少しでも和らげるために、友達に好きな人の話をするんでしょう?


 愚痴を聞いてもらったり、慰めてもらったり、応援してもらったり。


 そうゆうことを望んで、みんな友達に好きな人の話をするんでしょう?




「……ねぇ、恭子ちゃん」




 美波先輩が柔らかく微笑む。


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