危険ナ香リ
その後、授業が終わると、飛鳥くんは振り返ることもせずに教室を出て行った。
あたしが悪いんだって分かってる。
だけど、悲しかった。
「恭子!」
「うわっ!?」
バンッ、という激しい音と共に聞こえた余裕なさげな大声に、ビクッと肩を跳ね上がらせる。
見ると、柚乃ちゃんが申し訳なさそうにあたしの前にいた。
「ごめんね。あたし、佐藤さん達に、勝手に佐久間先生とのこと話しちゃって……」
……“なんでそんな話を佐藤さん達にしたの?”
そう聞こうと口を開いたのに、先に声を出したのは柚乃ちゃんの方だった。
「本当にごめん、恭子。……ごめん」
柚乃ちゃんの目を見ると、涙が溜まっていた。
その涙を見ると、あたしが悪いことをしてしまったように思える。
“嫌だ”と思った。
でもそれと同時に、意味もなく産まれた罪悪感から逃れたくて、許してしまいそうになる。
「……ねぇ、柚乃ちゃん」
ひとまず、浮かんできた色んな想いをグッとおさえて、声をだす。
聞きたいんだ。
どうして、佐藤さん達と一緒にいたのか。
どうして、佐久間先生のことを話したのか。
……どうして、懐中時計のことを、知っているのか。
「今日の放課後、時間ある?」
「え?」
「ちゃんと、話がしたいの」
休み時間の10分の間じゃ、足りない。
もっと長い時間が必要だから、放課後とゆう選択肢を選んだ。
柚乃ちゃんは戸惑うこともなく、目を伏せてから、頷く。
―――― 全部解決してしまおうと思った。
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