危険ナ香リ


 部屋に戻ると、柚乃ちゃんは居心地悪そうに正座していた。


 そんな柚乃ちゃんに紅茶を差し出してから、向かい側に座る。




「ごめんね。今、お菓子切らしちゃっててないの」

「大丈夫大丈夫」




 白い歯を見せて笑う柚乃ちゃんに、あたしも少しだけ微笑んでみせた。


 あたしはもちろんだけど……柚乃ちゃんも、うまく笑えていないような気がする。


 あたしが気づいてるぐらいだから、柚乃ちゃんなんか、あたしが笑えていないことにとっくに気づいてるに違いない。


 でも、お互いにそれを言わなかった。


 ……言ってもどうにもならないから、言わなかった。




「……ごめんね」




 カチャン、とカップをソーサーに置いた音と、柚乃ちゃんのそんな声を聞いて、顔をあげる。


 柚乃ちゃんは目を伏せていた。




「……どうして、佐久間先生のこと、佐藤さん達に話したの?」




 責める気はなかったんだけど、なぜだろう。


 また、学校にいた時のように目に涙を溜めている柚乃ちゃんを見ると、少しだけ口調がキツくなった。


 その口調は、あたしでも、柚乃ちゃんを責めているように聞こえた。




「えっと……」

「どうして?」

「……」

「……なんで佐藤さん達と一緒にいたの?」




 質問を変えたのは、柚乃ちゃんが答えづらそうに視線を揺らしていたから。


 自分でも驚くほどに、落ち着いていた。


.
< 258 / 400 >

この作品をシェア

pagetop