危険ナ香リ
「誘われた、から」
その質問は簡単に答えることができたようだった。
「そっか」
そう一言だけ言って、あたしは紅茶を口に含む。
……次になにを聞いたらいいんだろう。
やっぱり懐中時計のこと?
いやでも、佐久間先生とのことをどこまで話したのか、聞きたいし。
でも、佐久間先生関係の質問は無理かもしれない。
だって、さっき答えられなかった質問も佐久間先生関係の質問だったし……。
「恭子」
「え?」
「……あたし、ね」
言いづらそうにモゴモゴと口を動かしている柚乃ちゃんの次の言葉を、黙って待つ。
いくらか時間をかけた後、唇を噛んで、柚乃ちゃんはあたしに視線を移した。
泣き出すんじゃないかと思うぐらいに、柚乃ちゃんの目は涙に濡れていた。
「……恭子のこと、あんまり好きじゃなかったの」
ガツンと頭を殴られたような、そんな感覚。
それともナイフで刺されたような、そんな感覚だと言った方がいいだろうか。
……どうでもいいけど、胸が、苦しい。
とても、苦しい。
今、泣き出しそう顔をしているのは、柚乃ちゃんだけじゃなくて、あたしも、なのかもしれない。
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