危険ナ香リ
柚乃ちゃんに怒鳴りつけたのは、これが初めてだった。
そして柚乃ちゃんがあたしに怒鳴るのも、初めてだった。
お互いに、相手に向かって怒鳴るのは初めてだった。
「あんたが鈍感なんだっつーの!!飛鳥の気持ちも、祐の気持ちも気づかないなんて、鈍感すぎる!!ってゆうかバカでしょ!!」
「バカって言う方がバカ……って、柚乃ちゃん、祐の気持ち、知ってたの?」
「は?え?なに?恭子気づいてたの?」
お互いに“あれ?”という顔を見せ合いっこした。
……じゃあ、祐の気持ちを知らなかったのは、あたしだけだったの?
いや、でも、美波先輩と佐久間先生は知らないよね。きっと。
なら、知っていたのは飛鳥くんと柚乃ちゃんの2人ってことかな。
「……自分で気づいたの?」
「う、ううん」
「じゃあ、誰が……って、ああ、そっか。……飛鳥か」
納得したような顔して額に手をおいた柚乃ちゃんが、ため息をはいた。
目を伏せる様子が見えて、また、さっきのように泣きそうになっていることが分かった。
「柚乃ちゃんは、自分で気づいたの?」
「あたしは……祐本人から聞いたのよ」
「……え?」
祐本人から、って……。
そういえば、飛鳥くんも祐から聞いたような口振りだった気が……。
……けっこう人に話してるのかな。
なんか、あたしが恥ずかしくなってきちゃうよ。
「あたしにそうゆう相談してきてたのは、恭子だけじゃないんだよ」
そうゆう相談……ってゆうのは、恋の相談ってことだとすぐに分かった。
祐も、そんな相談をするんだ、なんて思いながら、少し気分を落ち着けるために、紅茶をすすった。
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