危険ナ香リ


 そっと、思考の世界から現実に戻って、柚乃ちゃんの姿を確かに見つめる。


 相変わらず目には涙が溜まって、怖い顔して怒っている柚乃ちゃん。




 ……ただこうして怒鳴られているだけよりなら、美波先輩の言うように柚乃ちゃんの気持ちを当ててみようと思った。




 あたしが人の気持ちを当てるだなんて、苦手な、とゆうか、無理なことなんだけど。


 こうして、柚乃ちゃんに怒鳴らせ続けてなにがあるっていうんだろうか。


 ただあたしも柚乃ちゃんも悲しいだけだ。




 “大丈夫よ。“好きな人には好きな人がいる”ってゆう片想いのツラさを知ってる恭子ちゃんなら、きっと分かるはずだから”




 片想いのツラさなら、痛いほどよく分かる。


 祐のことが好きで仕方なかったあたしは、祐と美咲ちゃんが付き合ってることがツラくて仕方なかったことを思い出した。


 2人の並んで歩く姿を見ることがツラかった。




 ……柚乃ちゃんを、あたしに置き換えて考えてみる。


 つまり、“あたし”は飛鳥くんを見ていることになる。


 ……“あたし”はどんな想いをしていたんだろう。

 どんな想いで飛鳥くんを見ていたんだろう。


 ……そういえば、柚乃ちゃんは飛鳥くんがあたしを好きだって、勘違いしてるんだっけ。


 じゃあ、好きな人には好きな人がいる状況なんだ。


 ……柚乃ちゃんは、あたしと同じ状況だったんだと分かった。


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