危険ナ香リ




「ねぇ、恭子」

「……なぁに?」




 ぐっと涙を堪えて微笑むと、柚乃ちゃんが頬についていた涙の跡を拭う。


 そして、あたしを真っ直ぐ見つめた。




「謝るのはあたしの方なんだよ」




 ……そうかな。


 柚乃ちゃんよりあたしの方が謝るべきなんじゃないのかな。


 だってあたし、すごい無神経だったし……バカだし。


 不快な思いをさせていただろうし。




「だって、自分勝手に怒鳴っちゃったし……」

「怒鳴ったのはあたしも同じだよ。だから気にしないで」

「それに、佐藤のバカに佐久間先生とのこと言っちゃったし」




 ああそういえばそんな話もあったなぁ。


 すっかり忘れてた。




「……ごめんね」




 悲しげな顔をしながら、そう一言いった柚乃ちゃん。


 あたしはその姿を見つめてから、首を横に振った。




「平気だよ。佐久間先生とのことは、本当のこと話せば分かってくれるだろうし」

「でも」

「……なんなら、佐久間先生ともう会わなくてもいいよ」

「は?」




 一瞬にして驚きに変わったその表情を見た。


 ……だって、柚乃ちゃん言ったよね。




「あたし、一個ぐらい、なにかを無くしてもいいよ」




 その一個がどれだけ大きいか、理解していながら、それを手放すと自分から言ったあたしは、どんなにバカなんだろうか。


.
< 271 / 400 >

この作品をシェア

pagetop