危険ナ香リ


 ゴンっ、と痛そうな音が鳴ると同時に飛鳥くんの手が頭から離れた。


 そして飛鳥くんは頭を押さえてしゃがみ込み、柚乃ちゃんは飛鳥くんを殴った手をブラブラと動かしていた。


 ……顔、怖いよ、柚乃ちゃん。




「ガキが。女の子の頭鷲掴みなんて、十年早いわ」

「い、意味分かんね……。つうか、お前、普通グーで殴るか?」

「平手打ち希望なら今からでもやるけど」

「遠慮しとく」




 痛がる飛鳥くんを見て、柚乃ちゃんに逆らわないようにしようと思った。


 そんなことを思いながら2人を見ているあたしの耳に、微かに声が入ってきた。




「やっぱ、清瀬さんと飛鳥くん、デキてんじゃない?」




 ……あの、デキてません。


 心の中だけで否定したあたしは、チラリと声の方向を見た。


 ちなみに、飛鳥くんと柚乃ちゃんは軽く言い合いになっていて、そっちに集中しているから、あたしの行動になんか気づかない。




「まっさかー。だって、清瀬さんだよ?」

「まあそっか。でも、清瀬さんって、昨日佐久間先生とデキてるかもって話になったよね?」




 ……佐久間先生ともデキてません。


 そう否定したくてもできないのは、……相手が佐藤さんのグループだったから。




「地味なくせに、意外に魔性の女だったり?」

「あはは。なにそれ、ギャグ?」

「有り得ないって。つうか、佐久間先生があんな地味な奴相手にするわけなんかないっしょ」




 ……地味ですいません。


 なんだかちょっとヘコんでしまい、うつむいた。


 あんな声聞こえなきゃいいのに、自分のことを言われているとなると、妙に耳がそっちに向かう。


 特別地獄耳なわけじゃないのに、なぜか地獄耳のようになってしまう。




「どうせ妄想だって。佐久間先生との妄想話を友達に聞かせちゃってるんだ、きっと」

「うわっ。それ超痛いじゃん」




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