危険ナ香リ
……耳ふさぎたい。
でも、今ここで耳をふさいだらどう見ても不自然だから、ふさげない。
……妄想だなんて、そんなことないもん。
それに、妄想だったら佐久間先生なんかを相手に選ばないもんっ。
あんなタバコくさい人なんか、ごめんだもんっ。
……で、でも、ちょっと悪い気はしない、かも。
「じゃあ、昨日聞いた話、全部妄想話?」
「なんじゃね?つーか、先生があんなの相手にするわけないじゃん」
「それ、さっきも言った」
なんだか、すごくバカにされてるようで悔しいし、悲しい。
だけど、妄想だって思ってくれてもいい。
その方が、佐久間先生との関係を疑われなくてすむから、……関係を説明しなくてすむから、それでいい。
……でも、やっぱり悲しいから、あたしはぎゅっと手を握った。
「―――― “あんなの”って、どんなのだよ」
……え。
嘘、なんで。
「……は?」
急いで顔をあげて、佐藤さんのグループがいる方向を向く。
声で予想はついていたけれど、実際に目で見ると、本当に信じられなくて言葉を失う。
佐藤さん達も、突然のことにビックリしているようだった。
「お前ら、なに言っちゃってんだよ」
「え、な、なにさ。あんたには関係……」
「関係ないけど、今の聞いたら口出さずにはいられねぇじゃん?」
冷たい視線で佐藤さん達を射抜いたその人の顔は、初めてみるほど怖い顔だった。
「もっかい聞くけど、“あんなの”ってどんなのだよ」
―――― なんで、祐が佐藤さん達にそんな顔を向けているのか、分からなかった。
.