危険ナ香リ


 だってあたしは、祐のことすごく傷つけたのに。


 そんな、庇うようなマネをされるほど、祐にいい思いをさせていないのに。


 まだ仲直りすらしてない状態なのに。


 ……なんで。




「……祐の奴、なんで佐藤のバカにケンカふっかけてるの?」

「え?あ、本当だ。……つうか、なんだよ、あの恐ろしい顔」




 祐に気づいたらしい柚乃ちゃんと飛鳥くんがあたしと同じ方向を向いた。


 他のクラスメートは数人がチラチラと気にしているみたいだったけど、大半は知らんぷりをしている。


 関わりたくないんだってことが、よくわかった。


 ……でも、今のあたしには、クラスメートなんかどうでもよかった。




「言っとくけどな、恭子のことバカにすんなよ」




 祐があたしを庇ってくれているような気がして、驚く反面、嬉しくて仕方がない。




「はあ?」

「あいつはな、ああ見えて意外によく怒鳴るんだぞ。しかも泣きながらだ。ありゃツラい」




 ……ん?


 な、なんだろうか。


 祐ってば、関係ない話をしているような気がしてならないんだけど……。




「なんでツラいかって言ったらな、その泣き顔がいい味だしてんだよ。分かるか?」

「……は?」

「分かんねぇのか。……そうだな。例えるならば、チワワが潤んだ目で見上げてくる姿に似ている。あれはヤバい」




 やっぱり全然関係ない話だ!!


 止めようにも止めるために動く勇気がないあたしは、顔を真っ赤にしながら視線を泳がせた。


 途中、柚乃ちゃんがニヤニヤと笑う顔が見えた気がした。




「どっちかっつーと、恭子はドM体質なんだよ。Sっ気がある奴にはイジメがいがある奴だぞ、あいつは」

「え、てか、話変わってんだけど」

「そうそう。あいつはな、ニンジンが嫌いなんだ。子供っぽいよな。でもそこがまた母性本能をくすぐられるんだよ」

「え、てか、あんた男だよね?母性本能ないよね?つうかどうでもいいしね、そのネタ」

「ネタじゃねぇよ。自慢だ、自慢」

「なんで今自慢してんのよ」




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