危険ナ香リ


 見てくれるはずがないと思い続けていたけれど、でも、やっぱり見てほしいの。


 誰かと重ねられるなんて嫌。


 見てもらえないなんて嫌。


 ……誰かがあたしを見てくれているなんて、有り得ないって、そう思ったことがあるけれど。


 その時でもやっぱり、本当は有り得ないなんて思いたくなかった。


 じゃあ思わなきゃいいんじゃないのと言われるかもしれないけど、思わずにはいられなかった。


 だってそうしなきゃ、寂しくて寂しくて仕方なくなりそうだったから。




 でも、そんな風にごまかしていても、やっぱり本音は隠しきれなかった。


 いつだったか。


 確かあたしの誕生日のあの日、佐久間先生との会話の時も、誰かがあたしを見てるなんて有り得ないんだと、自分に言い聞かせるようにそう思ったことがある。


 でもその後、佐久間先生があたしを“特別”だと言ってくれた時、期待した。


 “あたしを見てくれているかもしれない”と。


 矛盾していた。


 だからやっぱりごまかしても、本音は隠しきれないんだ。




「……見てる」

「え?」

「今は、清瀬のことちゃんと見てる。前みたいに美咲と重ね合わせたりなんかしてねぇよ」




 疑いをかけた。


 その言葉が、本当か嘘か考えてみた。




「……信用してくれねぇの?」




 それはとても寂しげな声だった。


 飛鳥くんの顔を見れないあたしは、視線を泳がせた。




「じゃあ、信用してくれるまで頑張るから」

「え?」

「時間かけてでも、お前に信用してもらえるように頑張る」




 顔をあげる。


 飛鳥くんの顔を見た。


 その顔は優しげで、でもどこか悲しげで……それでもやっぱり、真っ直ぐあたしを見つめてきていた。




 ……時間をかけるって、ずっと側にいてくれるってこと……?




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