危険ナ香リ
“可愛い”だなんて言われ慣れていないあたしは、もうどうしていいか分からない。
ただ、激しく心臓を動かしているだけだった。
佐久間先生にしがみつくように、ぎゅっと白衣を握ったのは、たぶん無意識。
……だって、今は指先まで意識が向かわないんだもん。
ただ、目の前にいる佐久間先生だけに意識が向かっている。
「……せ、せんせ」
「そうだ清瀬。葛西とどうなった?」
「え……?」
いきなり柚乃ちゃんの名前を出されて、本当にどこから柚乃ちゃんのことが出てきたのかサッパリ分からなくて、戸惑った。
顔を上げて佐久間先生の顔をみようとするけれど、佐久間先生が後頭部に手をおいて押さえつけてきたから、見ることができない。
「今学期はお前はもう掃除に来ないからな。会ったついでに呼び出したんだ」
「そ、そうなんですか」
「で、どうなった?」
……えっと。
別に柚乃ちゃんとのことを聞かれるのは構わないんだけど、なんてゆうか……なんでこんな状態でその話?
う、うーん。
佐久間先生が分からない。
でも、お世話になったわけだし、ちょうどいい機会だから、今話してしまおう。
「仲直り、しました」
「そうか」
「……あの」
「ん?」
「ありがとうございました」
お世話になったわけだし、ちゃんとお礼を言わなきゃいけないと思った時には、もう口から言葉が飛び出していた。
それを聞いた佐久間先生は、今どんな顔をしているのか、全然分からない。
「……ん。どういたしまして」
柔らかい声が降ってきたことで、あたしの頭は佐久間先生の笑顔を思い浮かべた。
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