危険ナ香リ




―――― 聞こえてたの!?




 ビクリと肩を震わせたあたしは、祐ではなく佐久間先生を見た。


 佐久間先生は眉を寄せて祐を見ていた。




「それに、」

「……それに?」

「美波って先輩が柚乃と話してたと思ったら急に“キスマーク!?”とか叫ぶから……。なんとなく、恭子が危ないかもしれないって思って……」




 柚乃ちゃん、美波先輩にキスマークのこと、話したんだ……。


 いや、まあ、うん、美波先輩になら別に話しても構わないけど。


 ……でも、美波先輩の耳に入るとなると、血の雨が降りそうな気がするのはあたしの思いすぎだろうか……。




「つまり、結局は、勘ってわけか?」

「……まあ」

「それで違ってたら大恥だな」

「あ、合ってたんだから別にいいだろ!」




 ……どうしよう。


 佐久間先生と付き合ってるわけじゃないんだけど、さっきのキスがあるから、関係なんか何もないとは言い切れない。


 どうしよう。


 もし、祐に佐久間先生との関係を追求されたら、あたしは何も言えない。


 きっと、あたしの沈黙を肯定として受け取るに違いないことは、幼なじみだからこそ分かった。


 キスされた唇を手で隠した。


 少しでも、この罪悪感から逃れたかったから。


 ……少しでも、この焦りから逃げたかったから。


 唇を隠したあたしの肩は、小刻みに震えていた。




「……で?」




 佐久間先生が、ひどく落ち着いた声でそう聞く。


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