危険ナ香リ


 ビクリと肩を震わせたのは、なぜなんだろう。


 自分の行動なのに、よく分からない。


 ひどく、胸が苦しいことは痛いほどに理解できた。


 ただ、なぜ苦しいのかは分からなかった。


 自分のことなのに、分からなかった。




「……そうか」




 そう答えた佐久間先生が、あたしの方を一瞬見た。


 そして、小さく息をはいた音が聞こえる。




「ってゆうか、マジでデキてねぇよな?キスマークがついてんのは恭子じゃないよな?」

「……ああ」

「……じゃあ、鍵かけてまでここで2人っきりでいた理由ぐらい、言えるよな?」




 不意に泣きそうになった。


 だけどやっぱり、なんで泣きそうになったのかは分からない。


 そんなあたしの視線の先にいる佐久間先生は、無表情のまま、祐もあたしも見ていなかった。




「清瀬の悩みを聞いてたんだよ。そうゆうの、誰にも聞かれたくないものだろう?」

「でも、保健室に来いって言ったのはあんただって、美咲から聞いたんだけど」

「雑用を頼んでたんだよ。その後、相談持ちかけられたから鍵をかけたんだ」

「……ふぅん」




 祐の質問をかわしていく佐久間先生の様子を見ていたあたしは、こっちを見てくれないかと思っていた。


 見られないことが不安だった。


 怖かった。




「あと、なにか聞きたいことは?」




 こんな風に、不安に駆られた時は佐久間先生に抱きしめて欲しくなる。


 それは、佐久間先生のニオイや体温が、ひどく落ち着くことを、今までの経験から分かっているから。


 だけどそんなことはできない。


 目の前に、祐がいるから。






「……あんたは、恭子のことが好きなわけじゃねぇよな?」






 目の前にいる祐が、そんな有り得ないことを聞いた。


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