危険ナ香リ


 でもよく考えると、それは生徒として特別だって意味で。


 ……あたしは、それをなんだと思っていたんだろうか。


 都合よく“特別”だなんて言葉だけを抜き出して、なにを期待していたんだろうか。




 あたしはおかしい。




 勝手に心のどこかで“なにか”を期待して、“ただの生徒”なんて言葉に勝手に悲しくなってる。




「好き、とか思ったことねぇの?」

「今さっき似たような質問してたのにまた聞くのか。しつこいな、お前」

「う゛」




 はあ、と短いため息をはいた佐久間先生は、あたしを見ようともしない。






「……好きだとも嫌いだとも思ったことはない」






 嫌いだって言われるよりはマシだ。


 全然マシだ。


 マシなんだ。


 ……マシに決まってるんだ。




 ひたすら“マシだ”と心の中で叫んでいた。


 そして、ぎゅっとスカートを握りしめ、唇を噛みしめた。






―――― 生徒としてでもいいから、一言、“好き”だと言って欲しかった。






 言い聞かせるような言葉達の中で、その本音は真っ直ぐにあたしの胸を貫いた。




.
< 318 / 400 >

この作品をシェア

pagetop