危険ナ香リ


 あたしは佐久間先生とは付き合っていない。


 浮気だなんてした覚えもない。


 それに祐はあたしの側にいただけで、“浮気”と呼べるようなことをした覚えはない。


 ……あたしが怒られる必要なんて、どこにもない。




「……とりあえず、もう6時よ?起きなさい」




 ため息をはいたお姉ちゃんにムカついた。


 だけど、そのムカついた気持ちを表に表すことはしなかった。


 ……表す気力がない。


 寝起きの気だるさはもう消えたのに。

 今はもう泣いてはいないのに。


 ……胸の中に広がっている、まだ泣いてるような切ない思いが、怒りや喜びなんて感情を吸い取っているようだった。


 それはもちろん精神的なもので、体がダルいわけじゃない。


 だけど、今は起き上がる気にすらなれなくて、あたしはお姉ちゃんの言葉に反して、枕に顔をうずめた。




「恭子っ」

「……んー?」




 今まで小声で話していたお姉ちゃんが、少し大きな声を出したせいで、隣にいる祐が目を覚ましたようだ。


 せっかく祐を起こさないようにあたしに顔を近づけて小声で話していたことが、今ので無駄になってしまったみたいだ。


 ……別に、あたしは祐が起きようが起きまいがどっちだってよかった。




「はら?ななこさん、なぜここに?」

「……ちっ。せっかく後で落書きしてやろうと思ってたのに、起きやがって」

「はら?なぜきょーこは俺のとなりでねてるわけ?」




 そんなの、先に寝てしまったであろうあたしな分かるわけがない。


 そうツッコミを入れるのは、今のあたしは、少し反抗的で、少しひねくれているからなんて理由も含まれる。


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