危険ナ香リ
「……祐」
「ふあい?」
「……とりあえず、洗面所で顔洗って目を覚ましなさい」
「なぜ?」
「話があるからよ」
……話をしてなんになるというんだろう。
どうせ怒られるだけに決まっている。
話なんかしたくない。
お姉ちゃんの勘違いなんかで、傷を広げる必要なんかない。
お姉ちゃんの言うとおりに洗面所に向かった祐の足音を聞いている最中、お姉ちゃんのため息の音も聞こえた。
その音から逃げるように、頭の先まで見えないように布団をかぶった。
眠りたいと思った。
夢の中が、唯一、お姉ちゃんから逃げられる場所だったから。
「恭子。出てきなさい。話ができないわ」
話なんかしたくない。
「怒るわよ」
もう怒ってるくせに。
「恭子」
うるさい。
「いいかげんに」
「……ってないもん」
うるさい。
「え?」
出て行って欲しい。
「―――― 付き合ってないもん」
短くて、単純な、こんな説明をするだけで、あたしの胸の中に巣くう切ない思いが、広がりだした。
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