危険ナ香リ
―― カタンッ
小さな物音だったけれど、ちょうど電話から声が聞こえていなかった所為か、その音はハッキリと聞こえた。
ビクリと肩を跳ね上がらせて、慌てて振り向く。
すると、閉まっていたはずのドアが開き、そこから、お姉ちゃんが顔を覗かせていた。
「……電話中?」
とゆうよりも、“誰と?”と聞きたげな顔のお姉ちゃんの後ろに、祐の姿も見えた。
「あー……えと、学校の先輩と……」
『ん?恭子ちゃん?』
「あ、えと、今、お姉ちゃんが来て……」
あたしがそうやって説明をしている内に、お姉ちゃんと祐が中に入ってきた。
何かを話そうとしているんだということは、2人の顔つきや雰囲気から感じ取れた。
どうせ佐久間先生絡みだろうと分かっていたから、この電話を切ることが嫌になった。
どうせ説教じみたことを言うとか、暗い方向に話を持っていくとか……そんな会話になるだろうことを、容易に予想ができたからだ。
『じゃあ、あたし、電話切った方がいいかしら?』
「あ……。すいません……」
美波先輩との会話も、すべて佐久間先生絡みだった。
お姉ちゃん達とこれから話すであろう内容と、今話していた内容は似ているに違いない。
では何故あたしはお姉ちゃん達と会話をするのが嫌なのか?
それは、面と向かって会話をするのと、お互い顔を合わせずに声だけしか分からない状態で会話することは、精神面への負担が全然違うからだった。
……だから、美波先輩との電話を続けていたかった。
電話の方が、まだ精神的に楽だから。
『じゃあ、またね』
「はい」
ブツッという音が聞こえた。
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