危険ナ香リ
その声を聞いた瞬間に、あたしは気づいた。
……お姉ちゃんは、あたしに説教をしようとしているわけじゃないし、暗い方向へ話を持っていこうとしているわけでもない、と。
……お姉ちゃんは、あたしを慰めようとしているんだ。
「だってね」
「もう、いいの」
「……え?」
慰められることに気づいた瞬間、強く、“嫌だ”と思った。
説教されるよりも、暗い方向に話に持っていかれるよりも、“嫌だ”と思った。
「……もういいの」
慰めることは、同情するってことでしょ?
あたしは、同情なんてされたくない。
……だって、どうせあたしの気持ちなんか分かんないくせに、分かったように話をしてほしくない。
「いいって……恭子、あのね」
「もう、佐久間先生のことなんかどうだっていいの」
「嘘だ」
「……嘘じゃないもん」
“覆してみようとは思わないの?”
頭の中で、美波先輩の声があたしにそう問いかける。
“もういいんだ”と答えようとする度に、その声はさらに優しく、さらに強いものとなる。
……気持ちが揺れる。
それを立て直す為に、あたしは膝の上で手を握った。
「……恭子」
お姉ちゃんのものではない、低い声が鼓膜を揺さぶる。
あたしはその声に返事もせず、祐の方を見ずに、そのままの状態でそこにいた。
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