危険ナ香リ




「俺、さっきも言ったよな?」




 何を言おうとしているのか大体分かった。


 それが正しいかどうかを確かめる為に祐の言葉を黙って待った。




「恭子が笑っていられるなら、それでいいんだって」




 予想通りだった。


 予想通りすぎて、ツマラナいと思った。




「佐久間先生の前で、笑ったことなんかないよ」




 声に出してそう言うと、不意に、自分がどうしようもないバカだと気づいた。


 ……だって佐久間先生に笑って欲しいって思っていたのに、……あたし自身が佐久間先生の前で笑っていなかった。


 あたしは佐久間先生のことしか……ううん。自分のことしか考えてなかった。




 “佐久間先生に笑って欲しい”とそう思ったのは、ただ純粋にそう思ったからじゃなくて……あたし自身が、楽になりたかったからだと、今になってようやく分かった。




 ……居心地がよかったのは、隣で佐久間先生が笑ってくれていたから。


 そして佐久間先生の温もりを感じていたから。


 ……あたしは、佐久間先生の前で笑いもしなかったし、温もりを感じさせることすらしなかった。




 結局あたしは、佐久間先生に何もしていなかった。




「もう、本当にいいの。だから、もうこの話は止めよう……?」




 このままだと、ずっと、後悔しそうで嫌だ。


 自分の情けないところやバカなところを見つけ出して、それを自分で責めて ―――― 後悔し続けそうで、嫌だ。


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