危険ナ香リ
なんで、今そんなことを言うの。
全然関係なんかないじゃない。
驚いて、今まで向けることのなかった視線をようやく祐へと向けた。
祐の隣にいるお姉ちゃんも、“何言ってるの”と言いたげな顔して祐を見ていた。
そして祐は、なんの表情も見せてはいなかった。
「でも、恭子は俺をそんな風に見てくれねぇなって思ったから、諦めようって思ったんだ」
「な、なに言っ」
「そう思ったから、美咲と付き合った」
あたしは言葉を詰まらせた。
……今、祐が話していることは、飛鳥くんの口から聞いてしまっていたから。
「付き合い始めた頃は、まだ恭子が好きだったんだ」
「……」
「……もし、」
そこまで言って、無言になった祐の顔が、無表情ではなくなった。
祐は、優しい目をあたしに向けた。
「もし、その時に恭子の気持ちを知ってれば……俺、恭子に告白してたな」
……祐は、あたしの気持ちを知ってたんだ。
きっと、祐があたしの気持ちに気づいたのは、祐がこの部屋にきたあの日だろう。
あの時に、あたしは祐が好きだと、気づかれてしまうような態度をとって、そんな気持ちをほのめかすことを言っていたから。
「でも、こんなのはただの言い訳で、俺は単純にふられるのが怖くて告白できなかっただけなんだ」
「……」
「ただ、逃げてただけなんだ」
「……」
「……だからさ、恭子」
優しげなその目が弧を描く。
祐は、その目に表れる優しさがそのまま表れたような笑顔を見せた。
「恭子は、俺みたいに逃げないで欲しい」
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