危険ナ香リ


 経験したことがあるからこそ言える言葉だと思った。


 そして、経験したことがある故に、その言葉はとても深いものに感じられた。


 ただ単に、逃げないことだけじゃなくて……もっと別の“何か”をも伝えてくれそうな言葉だと、あたしは思った。


 その“何か”がなんなのかは分からないけれど……。


 でも、




「……祐」

「逃げても意味はないって、逃げてから気づくのって、損だと思わねぇか?」

「……うん」




 反抗ばかりしていたあたしの口が、素直になった。




「だったら、逃げなきゃいいんだ」

「……うん」

「“どうでもいい”とか言って逃げようと思うなよ」

「……うん」




 その素直さに満足したらしい祐は、大きな息をはいて、肩の力を抜いた。




―――― “覆してみようと思わないの?”




 今なら、その言葉に頷ける。


 そう思うと同時に、今まであたしは、これ以上傷つきたくないから反抗ばかりしていたんだと気づいた。


 あたしは自己中心的な考えしかできないのかと、嘆きたくなる。


 ……こんなあたしだから、ふられたのかな。


 なんてことを考え始めた時。




「……えっと、話してもいいかしら?」




 控えめにそう声を出したお姉ちゃんが、祐の方を見つめる。


 祐は“あ、はい”なんて言いながらにっこりと笑った。


 ……ああ、そういえば、お姉ちゃん、さっき何かを言いかけてたなぁ。


 なんて思っていると、お姉ちゃんがあたしに目を向けてきた。


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