危険ナ香リ






―――― でも、それはあくまでも、“その瞬間だけ”。






「……」




 授業が始まって、今学期初めての放課後が訪れた。


 今週は別棟にある特別教室の掃除で……あたしはそこで、1人で掃除をするのが、当たり前になっていた。


 ここだけに関わらず、あたしは1人で掃除をしていた。


 ……なのに、今日は。




「……あ、あの……」

「何」

「……な、なんでも……」




 どうして、佐藤さんがホウキを持って、ここにいるんだろうか。


 そりゃ、佐藤さんはあたしと同じ掃除当番で……こんなの、普通は当たり前のはずなのに……やっぱりいつも1人でいたから、1人増えるだけで、なんだか違和感を感じる。


 佐藤さん、なんで急に掃除する気になったのかなぁ……。


 まあ、いいことなんだろうけど……。




「ねぇ」

「わっ!は、はい!?」




 あからさまに驚いてしまったことを後悔したのは、佐藤さんの眉がピクリと動いたのを見たから。


 機嫌を損ねてしまったかと思い、心臓がドキドキと嫌な音をたてる。


 そんなあたしの心配をよそに、佐藤さんはジロリとあたしを見る。






「あんた、本当に佐久間先生と付き合ってなかったんだね」






 急に出てきたその名前に、不意打ちをくらったあたしは、あからさまに肩を跳ね上がらせた。


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