危険ナ香リ




「まあ、端っからあんたみたいな地味女なんかが、あんな人と付き合えるわけないって、なんとなく分かってたけどさ」




 佐藤さんの言葉がまるでナイフのように先を尖らせ、あたしの胸を貫く。


 あまりの痛さに、あたしはついうつむいた。


 ……“地味女”だからふられたのかな。


 ううん。それよりも、あたしなんかが佐久間先生を好きだなんて、おこがましいことだったのかもしれない。


 あたしなんかが、佐久間先生の側にいたいと思うなんて……いけないことだったのかもしれない。




「……掃除……」

「は?」

「早く、終わらせちゃおう?」




 この話を打ち切りたくて、そんな言葉をはき出した。


 あたしは、何度、こんな風にふられた理由を考えればいいんだろう。


 なんで、あたしは自分で自分を否定しなきゃいけないんだろう。


 ……どうして、まだ諦める勇気も、佐久間先生の本当の気持ちを聞き出す勇気も、出てこないんだろう。


 あたしは前に進むことができないで、ただ、そこに立ち止まり、後ろばかりを向いている。


 こんな状態は、もう嫌なはずなのに。


 ……あたしは、もうどうしようもないバカだ……。




「ほんと、イラつく」

「……え?」




 小さなその声を拾い、なんでそんなことを言うんだろうと悲しく思い始めた時、




「地味なくせに、あたしに指図しないでよ」




 そんな冷たい声が聞こえ、肩を掴まれ、近くにあった壁に押しつけられた。


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