危険ナ香リ
その言葉に、否、その単語に、あたしは目を大きく開いた。
内ポケットの中に入っている“それ”の重みが、大した重さもないのに、急に重く感じた。
「思い出したわ。なんであんたが佐久間先生からプレゼントなんか貰ってんのよ」
佐藤さんの目があたしの目を見て、そして佐藤さんの口があたしに問いかける。
何を言えばいいのか分からなくて、あたしは固まった。
「ってゆうか、なんで懐中時計なのさ。やっぱ地味子はダサいモノ好きってわけ?」
「……っ」
“ダサい”と、そう言われてカッとなった。
佐久間先生が買ってくれたものを、否定されたくなんかない。
……佐藤さんなんかに、否定されたくない。
そう思った時には、あたしの手は佐藤さんの腕を掴んでいた。
「何?放してくんない?」
眉を寄せる佐藤さんが、肩を掴む手に力を入れるのを感じた。
ほとんど無意識な状態で、あたしは佐藤さんを睨みつけていた。
あたしを“地味”だと言うその口が憎らしいと思えたから。
蔑むようなその目に“何故そんな目で見るの”と、苛立ちに似た感情が芽生えたから。
……それら全ては、あたしの大切なモノをバカにした佐藤さんへの苛立ちからくるものだった。
そして、
「……んで」
「は?」
「なんであたしにばっかり、そんな毒づくの!?」
何故佐藤さんにそこまで嫌われているのか分からなくて……それが積もり積もって、苛立ちへと変わっていったから。
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