危険ナ香リ
普段のあたしからは考えられない、強気で大きなその声に、佐藤さんの目は驚いたように大きく開かれた。
でも、その目はすぐに苛立ちに変わる。
「なにキレてんの?わけ分かんないから」
「佐藤さんが、あたしにばっかりつっかかってくるから!」
「はあ?」
「あたし何もしてないのに、なんでそんなに嫌われてるのか分からないよ!」
本音が零れる。
佐藤さんが怖いだとか、そんなことは一切感じなかった。
そう思わせ、そしてあたしを動かすのは、積もり積もったこの苛立ちだった。
そしてその苛立ちの中には……ちょっとだけ、前にも後ろにも進めない情けない自分への苛立ちも、混ざってる。
「それに!言っておくけど、飛鳥くんはバックになんかついてない!」
「ついてんじゃん」
「飛鳥くんは友達なの!」
「うざい。喚くなっつーの」
「喚かせてるのは佐藤さんでしょ!?」
「勝手に人のせいにしないでよ」
ここの掃除区域担当の先生は出張が多くて、今日も出張の日だった。
だから今日、ここに先生は来なくて。
つまり、あたしの口を止めてくれる人は誰もいないってわけで。
「それと、あたしは佐久間先生に気に入られてなんかない!!」
その言葉を、どんな言葉よりも大きな声で言った。
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