危険ナ香リ


 知りたくなかったと思うことは間違いなのかもしれない。


 正確に言うなら、“分かりたくなかった”。


 ……佐久間先生にカノジョがいることは、佐藤さんが“カノジョ”という単語を出したその時から、気づいてた。


 ただ分かりたくなかった。


 だから聞きたくなかった。




「冬休みに一緒に歩いてるとこを見たって奴がいるんだよね」

「……」

「……あのさ」

「……」

「生徒とか地味だとか、そうゆうの抜きにしても、あんたは佐久間先生に好きになってもらえないんだよ」




 “だって佐久間先生にはカノジョがいるんだから”




 そう言われているような気がして、悲しくなる。


 ……カノジョ、いるんだ。


 ついそう思ってしまった。


 そして、




「分かったなら、もう止めてよ」

「……」

「佐久間先生に近づくのも、調子に乗るのも」

「……」

「いい加減、迷惑かけてることに気づいたらどう?」




―――― 佐久間先生に会いに行くことを、止めようと思った。




 もう何も聞き出さなくていい。


 聞き出す勇気も会いに行く勇気も、もう必要はない。




 だって、もう、失恋が確定してしまったから。




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