危険ナ香リ


 今のは完全にあたしの前方不注意が原因だ。


 ぶつけた頭を押さえ、慌てて頭を下げた。




「ご、ごめんなさ……」

「あれ。貴方……」




 ん? と思い、すぐに頭をあげる。


 そして顔を見合った瞬間、お互いに口を開けた。




 図書委員の人……!




「いつだったか佐久間先生と図書室でふしだらなことをしていた女生徒さんじゃないですか」

「ぎゃー!」




 ふ、ふしだらとか言わないでよぉ!!


 誰かに聞かれたら、変態だと思われちゃうじゃない!




「声が大きいですよ?」




 爽やかな笑顔を向けられ、ハッとしたあたしは両手で口を押さえた。


 しかし、時すでに遅し。


 ゆっくりと振り向くと、こちらを見ていた複数の人達が迷惑そうな顔をしていた。




「す、すみません……」




 小声で謝り、深く頭を下げる。


 恥ずかしくて、顔が熱くなっていた。




「バカなんですね」




 ぐさり、と胸を何かが突き抜けた気がした。


 少し笑みを感じるその声に、ゆっくり振り向くと、やはり図書委員は小さな笑みを浮かべていた。


 ……意地悪だ。

 この人絶対意地悪だ。




「……ぶつかって、すいませんでした」




 意地悪な人に進んで関わろうとは思わないし、顔見知り程度の相手と話すこともないから、そうとだけ言ってここを去ろうと思った。


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