危険ナ香リ




「ヒドいですね。僕は合意なしにそんなことはしませんよ」




 後ろで佐々木さんの声が聞こえる。


 思わず振り返ると、すぐ後ろに佐々木さんが立っていて、佐久間先生を見て苦笑いを見せていた。


 そして、あたしが見ていることに気づくと、こちらを見てにっこりと笑う。


 ……合意があったら、するんだ。


 その笑顔は、佐々木さんへの印象が変化した瞬間だった。




「だいたい、なんでお前が清瀬と話なんかしてるんだ。お前らは知り合いってわけでもなかっただろう」

「人はどこで知り合うか分かりませんよ?だって、出会ってすぐに体の関係に発展したりもするんですから」

「それはそうゆう人間だけだろ。清瀬はそんな不純なことはしない」

「“そうゆう人間”とは?」

「軽い人間、ってことだよ」




 あたしと同じことを言っている。


 少し驚いて、佐久間先生に顔を向ける。


 あたしの場合は、佐久間先生が“そうゆう”人だった。


 だけど佐久間先生にとっては、佐々木さんが“そうゆう”人なんだ。


 あたしにとって“そうゆう”人が、“そうゆう”人を睨みつけてる。


 その光景はあたしに、言葉では言い表せない、不思議な気分を起こさせる。




「わあ。偶然ですね」

「なにがだ」

「清瀬さんも先生と同じこと言ってましたよ。ただし、僕が“そうゆう”人間ではなく……先生が“そうゆう”人間だそうですけど」




 至極愉快そうな表情をする佐々木さんは、本当に悪魔なのではないかと思えるほど意地悪だった。


 普通、本人の前でそんなこと言わないよ……っ。


 ってゆうか、言わないでよぉお……っ。


.
< 384 / 400 >

この作品をシェア

pagetop