危険ナ香リ
「ヒドいですね。僕は合意なしにそんなことはしませんよ」
後ろで佐々木さんの声が聞こえる。
思わず振り返ると、すぐ後ろに佐々木さんが立っていて、佐久間先生を見て苦笑いを見せていた。
そして、あたしが見ていることに気づくと、こちらを見てにっこりと笑う。
……合意があったら、するんだ。
その笑顔は、佐々木さんへの印象が変化した瞬間だった。
「だいたい、なんでお前が清瀬と話なんかしてるんだ。お前らは知り合いってわけでもなかっただろう」
「人はどこで知り合うか分かりませんよ?だって、出会ってすぐに体の関係に発展したりもするんですから」
「それはそうゆう人間だけだろ。清瀬はそんな不純なことはしない」
「“そうゆう人間”とは?」
「軽い人間、ってことだよ」
あたしと同じことを言っている。
少し驚いて、佐久間先生に顔を向ける。
あたしの場合は、佐久間先生が“そうゆう”人だった。
だけど佐久間先生にとっては、佐々木さんが“そうゆう”人なんだ。
あたしにとって“そうゆう”人が、“そうゆう”人を睨みつけてる。
その光景はあたしに、言葉では言い表せない、不思議な気分を起こさせる。
「わあ。偶然ですね」
「なにがだ」
「清瀬さんも先生と同じこと言ってましたよ。ただし、僕が“そうゆう”人間ではなく……先生が“そうゆう”人間だそうですけど」
至極愉快そうな表情をする佐々木さんは、本当に悪魔なのではないかと思えるほど意地悪だった。
普通、本人の前でそんなこと言わないよ……っ。
ってゆうか、言わないでよぉお……っ。
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