危険ナ香リ


 にっこり、笑ってそう言う佐々木さん。


 それの、どこがいいことなんだろう。


 忘れたいと思っても忘れることはできなくて、辛い思いしかしないのに。


 そう思っていると、佐久間先生の腕を掴む力が少し緩くなる。




「誰に?」




 ……え、ちょ、な、なんでそこに食いつくんですかっ。


 そこはあたしが最も聞かれたくない質問で、特に佐久間先生には何が何でも聞かれたくないのにっ!


 真っ青に色づいた顔を佐々木さんに向けて“言わないで”と小刻みに首を横に振った。


 ふっ、と笑い声を漏らしてあたしを見る佐々木さん。


 ……悪魔め……。




「それはご自分でお聞きしないと」




 意地悪な笑顔だと思った。




「……性悪」

「誉め言葉として受け取っておきます」

「もういい。手を離せ」




 素直に離れたその手に、ホッと息をはいた。


 でも、安心する暇もなく、すぐに佐久間先生にぐいっと引っ張られる。


 ひらひらと手を振る佐々木さんを横目でみた。


 佐久間先生の手により閉められたドアの所為で、佐々木さんの姿が見えなくなる。


 ……結局、佐々木さんは何を言いたかったんだろう。




「清瀬」




 名前を呼ばれて、腕を引っ張る佐久間先生を見上げる。




「色々聞きたいことがある。もう掃除はいいから、少し話をしよう」




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