危険ナ香リ
「ほら。早くこっちに来い」
「え?あの……」
戸惑っているのが誰の目からでも分かるぐらい、あたしは戸惑っていた。
何故そんなに戸惑っているのか、と聞かれたら……あたしは恥ずかしくてそんなの答えられないだろう。
佐久間先生は、あたしにそうは聞いてこなかった。
「キスされるとでも思ったか」
ニヤリと笑う佐久間先生の表情を見て、あたしは顔を真っ赤にした。
……だって、図星だから。
「そりゃ、期待させて悪かったな」
「ち、違いますから」
「そうか?」
期待、していたわけじゃない。
ただキスされると思っただけで……。
……そう思ったのに逃げ出さなかったのは、あたしに、逃げる勇気がなかっただけ。
「そ、そんなことより、話をしましょう?」
「ん?……ああ」
なんとか誤魔化せたことに、ホッと胸を撫で下ろす。
佐久間先生があたしに背中を向け、ワークチェアに座ろうとする。
……カノジョがいる人とキスなんて、しちゃいけない。
そんなの分かってるのに……断ることなんか、できない。
「そこ座って」
「はい」
言われるがままにソファーに座った。
カバンは、肩にかけたままにした。
ここに、長くいる気はなかったから。
「どうして、掃除をサボった?」
座ってすぐに、雑談をすることなく、質問される。
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