危険ナ香リ
「それにしても、ただ俺を驚かすだけでこんなとこまで来るなんて……。常識を考えてくれよ」
「ただ驚かす為だけに来たんじゃないのよ?」
「じゃあ何しに来たんだよ」
「……それは後で話すから。それよりも」
チラリと女の人の視線があたしに向かってくる。
ビックリして肩を跳ね上がらせると、佐久間先生が「ああ」と声を出した。
「清瀬。お前、もう帰れ」
……それは、あたしが邪魔だから……?
ゆっくり佐久間先生に視線を向けると、ただあたしに視線だけを向けているその瞳と目が合った。
ドキリとした。
それは顔が熱くなるような、そんな鼓動の動きではなくて……。
“ああ、あたし、邪魔なんだ”
そう思わせられたからだった。
「……はい」
泣きそうだった。
好きな人に邪魔者扱いされることが、こんなにも苦しいことだなんて、知らなかった。
音をたてずに静かに立ち上がり、ドアに向かって歩く。
鍵を開けて、廊下に出る。
……何も言わずにドアを閉めてたところで、ボロリと涙が零れた。
諦めるって、そう思ってるのに。
結局あたしの意志は弱く、脆い。
それどころか、佐久間先生が引き止めてくれないかと、どこかで期待をしていた自分がいて……。
……腹立たしい。
どうしてあたしは、こんな風にどうしようもなく、バカなんだろう。
零れた涙を袖で拭い、もう泣かないようにキツく手を握る。
帰り道、あたしはいつもより弱々しい足取りで帰った。
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