危険ナ香リ
でも、だとしても。
“清瀬。お前、もう帰れ”
……あたしは、もう忘れた方がいいに決まってる。
「うん。それで……いいの」
これが強がりだとしても、この選択は正しいんだと、後から絶対にそう思うはずだから。
真っ直ぐに柚乃ちゃんを見つめてそう言えば、柚乃ちゃんは言葉につまり、複雑そうな顔をしていた。
あたしはそれを見て、罪悪感を感じた。
「ごめんね」
「え?」
「せっかく柚乃ちゃんに応援してもらってたのに……あたし、やっぱりダメだったみたい」
そして、もう一度「ごめんね」と言えば、柚乃ちゃんは悲しそうな顔をした。
何度謝っても、きっと足りない。
「……恭子は、なんで諦めないってことを知らないのかなぁ」
諦めない、だなんて。
あたしは……佐久間先生を好きで居続けても、きっと報われない。
佐久間先生の隣にいるのは、昨日いた女の人のような、綺麗な女の人がよく似合う。
もし、あの人が噂の佐久間先生のカノジョなら……あたしは諦めなきゃいけない。
自分が、これ以上傷つかない為に。
佐久間先生を、これ以上好きなってしまわない為に。
「恭子はきっと、自分に自信がないだけなの。恭子は可愛いんだよ。あたしは、このクラスで恭子が一番可愛いと思ってる」
「そんなこと絶対にないよ」
「あるの!あ、ちょ、いいとこにきた!祐!」
え、と思ってドアの方を見ると、ちょうど今教室に入ってきた祐の姿が見えた。
祐は“なんだなんだ”というような顔をして、こっちへやってくる。
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