危険ナ香リ


 タバコのニオイが紛れていく一方で、このまま風邪をひいてしまうのではないかと心配になった。




「先生は、どうしてタバコを吸うんですか?」




 寒さを紛らわせるための質問だった。


 佐久間先生は特に表情を変えずに、前だけを見つめている。




「どうしてって言われても……そういえばどうしてなんだろう」

「タバコって、肺が真っ黒になっちゃうんですよ。なのにそんなにいっぱい吸うなんて……佐久間先生、死んじゃいますよ」




 タバコって怖い。


 初めてそう思ったのは、幼稚園の時だった。


 公園で遊んでいた時、近くにいたお兄さん達がタバコを吸っていて、それをお母さんが注意した。


 その時、タバコは有害なんだと熱く語っていたお母さんの言葉を熱心に聞いていたのは、お兄さん達ではなくまだ幼いあたしだった。


 “タバコってこわい”


 そう思ってからは、なんだか急にタバコのニオイが嫌いになってしまった。




「清瀬って、ガキ」




―――― はい?


 今の言葉は空耳?と思ってみるが、喉を鳴らせて笑う佐久間先生を見た瞬間、空耳ではないと気づいた。




「肺が真っ黒って……表現の仕方がお子様」




 その一言が決め手になった。


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