危険ナ香リ


 萌えって……。


 なんだかどう反応していいか分からなくてひたすらうつむいた。


 昨日は佐久間先生がムカついたからあんなに騒いだわけで、別に同年代の人と差別してるわけじゃない。


 あたしだって、イラッとしたら怒るし、騒ぐもん。


 ……もし、佐久間先生と同年代の人達と違うところがあって、知らず知らずのうちに差別しているんだとしたら……。


 それはたぶん“近いか遠いか”の違いだと思う。




「だいたい、お前が言ってる“萌え”ってなんだ?俺は清瀬にそんなもの感じないぞ」

「なんかこう、キュンとしない?キュンとこない?」

「しない。って、生徒相手にときめくのは有り得ないだろ」




 そう。あたしにとっての佐久間先生は“教師”。


 しかも、健康体のあたしにはあんまり馴染みのない“養護教諭”。


 同年代の人達なら、あと1年、もしかしたらその後も付き合わなきゃいけない。


 だけど佐久間先生とは、あんまり関わりもなくて他人に近い。


 “近い”人とは“その後”の関係も気にして動かなきゃいけないけれど、“遠い”人には“その後”を考える必要がない。


 要は、関わりたくないと思えば、関わらなくてすむかどうかの違いがそこにあった。




「じゃあ、涙目の時、もっと泣かせたくならない?そんで、ちょっと楽しくなることない?」

「ああ。それなら分かる」

「じゃあそれよ、それ!あたしは恭子ちゃんにそれを強く感じるのよ」



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