危険ナ香リ


 ドキドキしながら息をひそめる。


 音という音を出さないように、全神経をとがらせた。




「清瀬?が、どうかしたのか?」

「うーん。どうかしたってわけじゃないんだけどさ」




 ゆっくり、振り向こうかと思ったけど、振り向いても本棚しか見えなかいことを思い出して、やめた。


 いつの間にか、ずいぶん奥まできていたみたいだ。


 まあ、本棚をひとつ越したらすぐに壁だから、ここはほぼ最深といってもいいだろうけど。






「ちょっと、前にお金貸しててさ。返してもらおうかと思って」






―――― 嘘だ。




 あたしは、佐藤さんにお金を借りた覚えなんかない。


 じゃあなんで佐藤さんはそんな嘘をつくの?


 ……まさか……。


 嫌な予感がして、体を凍らせた。




「清瀬が?お前に?」

「うん。そう」

「……へぇ」




 冷や汗が出そうだった。


 そんな中で、あたしは黙って、息を殺していた。




「嘘つくなよ。誰にも言わないからさ、本当の理由、教えてくれないかな?」




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