危険ナ香リ




「ふぅん。つまり、カツアゲ?」

「人聞き悪いこと言わないでよ。借りるだけだってば」

「へぇ。ちゃんと返せよ。返さなかったら、ここにいる図書委員が全校放送でバラすぞ」

「やだなにそれぇ」




 呆然としたまま、動けなかった。


 キャッキャッと甘ったるい声を聞かせながら、普通に会話をしている佐藤さんに、腹が立った。


 ……そんなの、カツアゲと同じだよ。


 腹が立つと同時に悲しくなって、涙が出そうになる。


 じわっと目に涙が溜まり、それを零さないように必死に堪えた。






―――― そんな時だった。






 ぐいっと涙を拭いて、何気なしに本棚を2個挟んで見えた窓の方を見た。


 向こう側の校舎には教室があって、1階の教室なんて、もう、丸見えだった。


 そして、あたしから見て真っ直ぐ前にある教室なら、尚更よく見えた。




 視力がいいことが、あたしが自慢できる数少ないことの中の1つだった。




 今は、それが恨めしくて仕方がなかった。






―――― 祐と美咲ちゃんの、キスシーンが見えた。






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