危険ナ香リ





 しゃがみ込んで、息を殺して、泣いた。




 今はもう、ひたすら泣くことしかできない気がする。




 ……頭の中に浮かぶのは、重なり合う2人の姿。


 耳に残り続けるのは、佐藤さんの言葉。




 なにも考えたくない。


 そう思うのに、どうしようもないあたしは、それらを考えずにはいられなかった。






―――― ふわりとタバコのニオイを感じた。







 それとほぼ同時に、頭の上に、大きくて暖かいなにかが乗っかった。


 それは、あたしの髪を優しく撫でるように動く。




「悔しいくて泣いてるのか?」




 いつもより、穏やかな声だった。


 その声を聞いて、あたしは首を横に振って答えた。




「じゃあ、悲しいから?」




 これにも、首を横に振った。




「……くから」

「ん?」

「むか、つくから」




 しゃくりあげながら、弱々しく声を出した。


.
< 74 / 400 >

この作品をシェア

pagetop