危険ナ香リ



 ……ムカつく。

 腹が立つ。

 イラつく。


 悔しいや悲しいなんて気持ちをとっくに通り越して、泣くほどの苛立ちだけを感じていた。




「みんなみんな、大っ嫌い……っ」




 どうせお金を貸したって返さないに決まってる佐藤さんが、嫌いだ。


 あんなとこでキスしていた祐と美咲ちゃんが、嫌いだ。


 毎回毎回あたしの前だって知ってるのに、祐と美咲ちゃんの話をする飛鳥くんが、嫌いだ。


 あたしをそっちのけに話をしている美波先輩と柚乃ちゃんが、嫌いだ。


 あたしが嫌いなタバコのニオイを振りまいている、佐久間先生が、嫌いだ。




「なんで、あたし、悪いことなんか、してないのに、」

「……ん」

「大人しくしてる、だけなのにっ」

「ん」

「どうして、みんな、全然、あたしのこと見てくれないのぉ……っ」




 もう何を言っていいのか分からなくなっていた。


 思うがままに言葉を繋いだおかげで、なにを言いたいのか他人には分からない。


 あたしだって分からない。


 でも、どこからともなく言葉は溢れてくる。




「あた、あたしだって、頑張ってるんだよ!」

「うん」

「ちょっとでも、かわいくなりたくて……でも、みんなかわいくて、あたしなんか、」

「ん?清瀬はかわいいと思うけど?」

「違うんだもんん!」




 バッ、と顔をあげて、目一杯否定した。


 顔をあげたせいで、佐久間先生の顔が見えた。


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