危険ナ香リ



 背景は本棚。


 そんな背景は絶対似合わない白衣を着た養護教諭の姿が見えた。


 だけど、涙で霞んで、今、佐久間先生がどんな顔してるのか、分からない。




「先生は、美咲ちゃんのこと知らないから、そんなことが言えるんだよ!」




 頬が空気に触れると、冷たい。


 それは大量に涙を流しているせいだって、気づいてる。




「美咲ちゃんって、誰?」




 さっき顔を上げた時に離れていったそれが……佐久間先生の手が、今度な頬に触れた。


 涙を拭うその指先から、タバコのニオイがした。




「タバコくさいっ!」

「あ。ごめん」




 怒鳴るとすぐに離れていった温もりに、イラッとした。




「先生なんか嫌い!」

「うん」

「バカ!」

「うん」

「ロリコン!」

「違う」

「女たらし!」

「え」

「不良!」

「ごめんなさい」




 静かな図書室の中で、あたしの怒鳴り声が響き渡る。


 そして、ボタボタと涙が落ちていく。


.
< 76 / 400 >

この作品をシェア

pagetop