危険ナ香リ


 ……なんで、そんなに何事もなかったような顔していられるのか、不思議でたまらない。


 あたしは、あんなに近くで誰かを感じるのは初めてで、あんな、体が熱くなるような感覚も初めてで。


 ……だけど、佐久間先生はきっと初めてじゃないんだ。


 だからこんなにすぐに、元に戻れるんだ。




「……やっぱり女たらしなんだ……」




 ポツリとそう言うと、佐久間先生と図書委員の会話が急に止まった。


 どうやら、聞こえてしまったらしい。


 急いで2人とは反対の方に顔を逸らして、少し冷や汗を感じながら固まる。




「さっきドアの前で怒鳴り声を聞いてる時も思ったんですけど、この人、意外に言いますね」

「そうなんだよ。こいつ、意外と言ってくれるんだよ」




 今すぐ振り向いて謝りたいと思ったけど、振り向く勇気がなくて、そのまま固まり続けた。


 あたし、なんで、独り言なんかいっちゃったんだろう。


 後悔が徐々に這い上がる。




「でも、そうゆう意外なところを見つけていくのって、案外悪くないんだよな」




 そういえば、あたしはこの間から佐久間先生に“意外に”という言葉を結構よく使われているような気がする。


 まあ、普段は地味で大人しくて暗いあたしが、あんなに怒鳴ったりしたら、それは確かに“意外”だろう。


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