危険ナ香リ
だって、この間のことをあまりにもリアルに思い浮かべてちゃったんだもん。
いい声って……あの変な声のことだよね?
あんな変なの、もうヤダ!
くっ、と1つ喉を鳴らせて笑った佐久間先生の胸板を思いっきり押してみた。
効果はなかった。
悔しいから腕をつねって……無駄な肉がないから掴めなかった。
噛みついてみようか。いや、ダメだそんなの。タバコくさい白衣になんか噛みつけない。
眉をハの字にしながら、佐久間先生の腕の中でオドオドと動く。
そんなあたしを、何もしないで見ていた佐久間先生はしばらくしてから吹き出した。
「冗談だっての」
……冗談……。
……冗談……!?
パッと離れてあたしに背中を向け、小さく肩を揺らして笑う佐久間先生を、パクパク口を動かしながら見る。
「いや本当。お前をからかうのは面白いな」
殺意が芽生えた。
「先生のアホー!!」
こ、この、エセ教師め!
何回もあたしのことからかってくれちゃって……!
もうヤダ!この人ヤダ!悪魔だ!鬼だ!タバコの魔神だ!
「もういい!帰る!」
掃除なんか、佐久間先生1人でやればいいんだ!
ドスドスと足音をたてて、帰ろうとドアに手をかけた。
「これは?」
ピタリと手を止めて佐久間先生を見ると、ニヤニヤ笑う先生はあたしにピンク色の紙袋を見せつけていた。
……うむむ……。
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