危険ナ香リ


 唇を尖らせながらそれを見つめる。


 取り戻したかったので、しぶしぶ佐久間先生の元へ歩くと先生は本当に楽しそうに笑った。


 ……いつか天罰がくだるはずだ。




「掃除するなら返してやるよ」

「……します」

「物分かりがいい子は好きだ。それじゃ、早く終わらせろ」

「……はぁい」




 天罰が下ってしまえばいいのに、と思った。




 1人、廊下でモップがけをしながら、佐久間先生の愚痴を心の中に吐き捨てた。


 不良。女たらし。ロリコン。


 ……変態。


 あんな、ふっ、ふしだらなこと、どうせ他の人にもやってるんだ。


 変態だ。ふ、ふしだらだ。


 ……なんか、ふしだらとか言ってる自分がふしだらな人間に思えてきた。


 はあ、とため息をはいて、愚痴をやめた。




「あ……!」




 ん?


 静かな廊下で小さな声が聞こえて、思わず振り向いた。






「……あ」






―――― キスシーンが、小さな2つの背中が、頭の中に浮かんだ。




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