snow flake〜罪な恋に落ちて〜

入り口に立ったまま動けない。

何をするか分かってるのに動けるワケない。


それでも私を貶めるように樹は口を開く。

「おせぇし。何つったってんの?」



「呼んだのは樹でしょ?」
平静を装っても樹にはお見通しだろう。

でも、何も言わないよりは幾分かマシだと思いたい。


眼鏡の奥から薄茶色の瞳が私を射抜く。


瞬間、心ごとわしづかみされたみたいだった。

体内の血液が樹を求めるような感覚。

逸らすことを許されないような視線。


「ウチの“姫様”はワガママだこと…」

言いながら立ち上がると眼鏡を外す。

私の一番好きな仕草。


何も遮るものがない。

樹の瞳に捕らわれる。

心臓がひどく煩い。
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